賃貸運営のための特殊清掃相談窓口【大切な不動産守ります】
【実録】孤独死、ゴミ部屋紛争解決と原状回復までの道のり
2022/06/16
2021年3月東京都大田区で起きた孤独死案件での特殊清掃から原状回復までの記録です。
賃貸オーナーからの依頼で死後2ヶ月(浴室)+ゴミ部屋というものでした。
<物件概要>
RC5階建て築29年近隣商業地域に建つ1K~2DKの賃貸マンション(オーナー自主管理)
<事故概要>
このマンションに住む50代男性が浴室で死亡し死後2ヶ月で発見されたもの。
居住年数8年、連帯保証人あり、賃貸仲介は某大手不動産会社。
<特殊清掃までの経緯>
物件オーナーより賃借人が孤独死が発生、すでに警察の立入許可も出ており入室は可能だがゴミが多くユニットバスまでたどり着けないと相談。
この時点で相当なゴミ部屋であることを確信し翌日に現地を拝見することにしました。
相続放棄を主張する連帯保証人
約束の時間に現地に伺うとすでに物件オーナーはマンション前で待機。
連帯保証人が来るまでに部屋を拝見しましたが玄関を開けるとすぐにゴミの山があったが我々にしてみれば困難なものでなく進入不可というレベルではなかったためそのままユニットバスまで行きました。
ユニットバス内には数百のハエが飛び回っており壁面にはウジ跡、浴槽内はすでに水は枯渇しており底に人体の一部と思われる物が沈んでいました。
居室は平均高さ1m強でコンビニ系が堆積し部屋の広さから鑑みておそらく6~7年ゴミを溜めたと推定。
しばらくして連帯保証人である故人のお姉さんが現地に到着し開口一番オーナーに対しこう言い放ったのです。
「相続放棄をする予定なので私はもう関係ありません」
その言葉を聞きオーナーは怒り狂い「そんなことより先にひとこと言うことがあるだろ!」とまくしたていきなりから不穏な空気となりました。
この場面で僭越ながら口をはさみました。
「相続放棄は関係ありませんよ」
確かにこのお姉さんは法定相続人でもありますのでおっしゃるようにプラスの財産マイナスの財産すべてを放棄することができこの部屋の件に関してもその対象となります。
ですがこのお姉さんの立場は『連帯保証人』です。
入居中はもちろん退去明け渡しまで一切の債務を負う連帯保証人なのです。
直近の契約更新でも連帯保証承諾書に署名捺印しており連帯保証人としての債務を負うことは確定的なものとなりました。(極度額336万円の連帯保証契約)
※2020年民法改正により賃貸契約の連帯保証も極度額を定めなければいけなくなりました。
連帯保証人はどこまで責任があるのか?
この部屋を退去(明け渡し)に際してお姉さんにその責任があることを納得してもらった上でそれに必要な作業と見積額の提示に移りました。
まず特殊清掃の部分とゴミ部屋片付けそれぞれ分けて算出しました。
玄関から廊下部分のゴミ撤去と浴室の特殊清掃、それに付随する消臭作業と排水管高圧洗浄までをいわゆる特殊清掃費用とし居室内のゴミ撤去とハウスクリーニングを明け渡しのための片付け費用と算出しました。
特殊清掃費用:315,000円
ゴミ撤去費用:450,000円
この費用については了承し全額連帯保証人が支払うことに合意となりました。
一応の目の前のことはこれで問題ありませんがその先のことが控えています、オーナーは原状回復の費用はどうなるか?と聞いてきたのです。
一瞬連帯保証人の顔がこわばりましたがまだ何も着手していないのでどの程度の工事が必要になるか不明だったためまずは上記の作業をやってみて損傷具合を確認してからになりますがすべてを賃借人(連帯保証人)負担には法的にできないと伝えた上で上記作業に着手したのです。
想像以上に部屋の傷みが激しかった
特殊清掃を終え部屋のゴミも撤去し一応の清掃や消臭も終わった段階で部屋を見渡すと想像以上に傷んでることが判明しました。
まずユニットバスは死後日数長かったこともあり底部に沈着がありクリーニングで復元できるものではなかった。
居室に関してはゴミから出た汚水や長らく換気をしていなかったために起きた結露や湿気で床や壁材がかなり傷んでおりかなり大規模なリフォームを行わないと次の入居者を募ることができない状態でした。
やはりゴミ部屋は部屋を傷めますし壁にしても壁紙を貼りかえる程度で済まないのは誰が見ても明らかでした。
弊社ではゴミ部屋片付けを相当数こなしていますが程度の差こそあれ片付け後に『無傷』であったものはほぼ皆無で特に床や壁はこの部屋同様にハウスクリーニングでは到底取り切れない沈着や破損汚損が見受けられます。
通常損耗と善管注意義務違反
このように孤独死とゴミ部屋のダブルパンチはレアケースではなく意外にも多いのですが原状回復の費用負担については紛争になることが多いです。
上記の例も連帯保証人であるお姉さんはこの原状回復についてはかなりの抵抗を見せました。
お姉さんの主張はすでに特殊清掃を行いゴミも撤去して明け渡しが完了したのでこれ以上の責任はないはずだ!
オーナーの主張はゴミ部屋にされた上に孤独死じゃたまったものじゃない!すべての費用を払え。
このようにほとんどの場合真っ向から対立することになります。
どちらの主張も理解できなくもありませんが弊社は中立かつ法的な見地で下記のような意見を述べました。
1.孤独死が起きたことに故意過失はなくすでに連帯保証人は特殊清掃を行っており責務を果たしたと言える。
しかし死後経過相当日数が経過しご遺体は腐乱していた、それによる汚れの沈着であるため交換が妥当であるが交換費用から減価償却分を引いた物が連帯保証人の負担。
2.ゴミ部屋であったことから生じた破損については賃借人負担で行うべきである。
なぜなら賃借人には等しく課せられる『善管注意義務』があるのでゴミ部屋にしてしまったことは一方的に賃借人の故意過失である。
ただしユニットバス同様減価償却分を引いたもの、壁紙に至っては居住期間が8年であったことから普通に退去したとしても耐用年数が経過してるためオーナー負担。
このような意見書を弊社顧問弁護士から交付していただきました(栃木柳沢樋口法律事務所 弁護士栃木義弘先生)
具体的な費用負担としては下記のような計算式です。
リフォーム総額-ユニットバス減価償却分-床材減価償却分-壁紙分全額=連帯保証人支払額
この建物はRC造であったので47年-29年=18年分の費用負担(仮に47万円の物であれば29万円分は償却済みだから18万円だけ負担すれば良い)
結果的に200万円程度の原状回復費用をオーナー6割連帯保証人4割の費用負担で原状回復工事を行いました。
今回の場合はRC造のマンションだったため建物そのものに残存価値があったのでこのような計算で行いましたが、法定耐用年数が22年の木造アパートなるとすべての費用が免責されるのかと言えばそうでもなく実際は今後先どれぐらいの期間賃貸物件として機能するかをモノサシとする場合もありケースバイケースです。
孤独死対応型の保険に加入しておきましょう
この事例は連帯保証人に資力があったため比較的スムーズに完了しましたが現実は連帯保証人が居ても資力がない、そもそも連帯保証人がいないなど結果的に物件オーナー費用を負担しなければならないケースがほとんどです。
ですから賃貸運営には孤独死に対応する保険に加入しておくこが必須です。
借家人側でもこのような場合に保障される特約の付いた保険もありますが保険請求者が遺族や相続人、連帯保証人に請求権があるためスムーズに事が運ばない場合もあります(物件所有者が保険請求できる場合もあるらしいですが詳細不明)
ですから物件オーナー側で保険に入っておくのがベストな選択です。
従来の火災保険の特約に付加する場合や孤独死など不測の事態のためだけに掛けておく少額短期保険などがありますので目的にあった保険を選びましょう。
大手損保の特約では空室期間の家賃保証までカバーされるものもあります。
孤独死や自殺部屋の告知や損害賠償請求について
孤独死や自殺、殺人などがあった場合どこまで告知義務が必要か?損害賠償請求は誰にいくらできるの?
まず賃貸物件における心理的瑕疵とは?
1.孤独死で発見が遅れた場合。
2.自殺。
3.殺人。
4.風俗営業としての使用。
5.火災発生。
6.土地に大量の廃棄物が広範囲に埋設されていた。
7.反社会的な活動を行う宗教団体のアジトだった。
これらが心理的瑕疵となり売買や貸借の場面で告知しなければ損害賠償請求などに発展することがあります。
賃貸物件の退去時のように今のところ国土交通省から明確なガイドラインが示されておらず判例を参考にするしかありません。
ではどれぐらいの期間告知しなければいけないのか?売買の場合と賃貸の場合とにわけて判例から考察してみます。
心理的瑕疵を告知すべき期間とは?【宅地建物売買の場合】
一般的に過去に起きた事件や事故は時間の経過とともに薄れますので、時間の経過とともに嫌悪感も小さくなります。
すなわち、告知義務が発生するのは心理的瑕疵が時間の経過により消滅するまで、ということになります。
問題は具体的にどれぐらいの期間を要するのか?ここが物件オーナーや賃貸管理者の知りたいところだと思います。
(損害賠償や契約解除が認められた判例)
1.ベランダで首つり自殺 6年
2.室内で首つり自殺 5か月
3.室内で他殺が疑われる2名の死亡 約9年
4.競売物件で所有者が腐乱死体で発見 競売取下
5.取壊された建物内で凄惨な殺人 50年
6.農薬自殺、4日後に病院で死亡 7年
これらの判例で注目したいのは(6)です。
事件から約7年経過した頃に当該建物を売却したが、当該物件は山奥の山村地帯にありその状況に照らすと7年程度では心理的瑕疵の消滅する時間とは認められないと、買主の契約解除を認めたというものです。
実際に物件内で亡くなったわけではない場合でも地域によってはこのような判断がくだされることもあるのです。
(3)売主がその事実を知っていながら告知しなかったとして告知義務違反と契約解除、さらに違約金を認めたというものです。
(5)に至っては50年前に凄惨な殺人事件があり(バラバラ殺人など)その後建物は取り壊され、更地の売買での出来事です。
これだけの期間が経過し、すでに建物がない状態でも裁判所の判断は告知義務違反と認定し買主の契約解除を認めたというかなり厳しいものとなりました。
逆に同じような案件でも心理的瑕疵が認められなかった例もあることから、地域特性や事件の内容によるようです。
傾向としては人の入れ替わりが早くなおかつ地価も高い地域は短期間で心理的瑕疵が消滅し、山村地帯や地方の集落ではこの期間が長いことが多いようです。
民法の契約不適合責任が改正されたことを鑑みても、例え売買時に特約を定めていても事実を秘匿していた場合は特約自体も無効となり契約解除や損害賠償請求をされてしまう可能性があります。
ただ今のところ心理的瑕疵を契約不適合で争った事例はないようですが、拡大解釈で適用される可能性はあります。
※上記判例の期間は事件発生から判決までの期間であって、その年数を過ぎれば消えるというものではありません。
つまり売買の場合はかなり長期に告知を行わなければいけないということになります。
心理的瑕疵を告知すべき期間とは?【賃貸借の場合】
賃貸の場合は厳密な定めがあるわけではありませんが、何らかの事件があった場合その事件について直近の入居者(希望者)には告知しますが、その次の入居者には告知しないという運用が多いようです。
では、所有物件で自殺があった場合、元賃借人(法定相続人や連帯保証人)に対してはどのような損害賠償請求がなされたのかをご紹介します。
1.東京都内の賃貸ワンルームマンションで自殺。
東京地裁は事件後3年間の逸失利益を認めました(1年目全額、2~3年目半額)合計132万円、ただし事件によって生じたとされる建物価値の減少は棄却。
2.仙台市のワンルームアパートで自殺。
事件後2年間の逸失利益を認めたが、賃料を下げて募集を行ったところ入居希望者があったため本来の賃料との差額のみという判例、これも建物価値の減少の主張は認められませんでした。
3.東京都内のマンションで殺人事件+犯人が自殺。
この事例も(1)と同じような判決でした。
たとえ殺人や自殺があっても建物価値の減少という主張が退けられてるのは特徴的です、将来そのマンションやアパートを売却しようとする場合、心理的瑕疵が発生する可能性があるにもかかわらずこのような判断がされてしまうのです。
では孤独死の場合はどうでしょうか?
1.東京の賃貸アパートで孤独死が起こり建物価値減少と現状回復費用およそ587万円を求めた損害賠償請求の場合、平成19年3月9日東京地裁での判決は以下の通りです。
借家であっても人間の生活の本拠である以上、病気や老衰による自然死は当然に予測できることであり、借家での自然死につき当然に賃借人に債務不履行や不法行為責任を問うことはできない。(省略)よって貸借人の請求を棄却する。
自然死(孤独死)の場合は上記のように認められない事例が多いようですが、逆に一定の損害賠償請求が認められた例もあります。
2.アパートで孤独死が発生し相当日数発見されなくて腐乱化、これにより損害賠償を求めた際の判例(請求額不明)
本件について原状回復費213万円については認めたが、賃借人の善管注意義務違反、不法行為責任は認められないとして、本件貸室の悪臭が消えた後の賃料減額分、本件により隣室賃借人が退去したことによる逸失賃料相当額の請求は棄却した。
賃貸物件オーナーにしてみればかなり厳しい判決と言わざるを得ませんが、裁判所が人が亡くなるのは当り前なんだから孤独死が起こったとしても原状回復をキチンとやれば物件価値はそう下がりませんよ、と言ってるのです。
孤独死が起きても物件価値を減少させない唯一の方法とは
事件事故発生後の処理(特殊清掃)をしっかりやる。これに尽きると思います。
弊社では一報があればすぐに駆け付け特殊清掃一次処理を行うことを推奨しています、これは現在発生している臭いや虫をとりあえず除去することですが、特殊清掃一次処理を行うことにより近隣住人の退去やクレームを止めることができます。
次工程も臭いの元である遺体痕を完全に除去し絶対に臭い戻りしない特殊清掃を心がけています。
孤独死が起きた!30秒で解決します。東京、神奈川、千葉、埼玉の特殊清掃業者
この記事は賃貸物件オーナーや管理会社向けに書いていますが、身内にこのようなことが起きた相続人や連帯保証人の方も是非参考にされてください。
つまり、どちらの立場だったとしても迅速に処理を行うことがお互いのためということです。
株式会社まごのて不動産事業部では、事故物件の買取や孤独死などの対策のためのコンサルタントを行っています、所有物件の管理でお悩みのオーナーさんは是非ご相談ください。
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